top of page

私たちは仮想の世界に生きている-その構造と考え方-

更新日:2020年9月2日

 アドラー心理学では、「人間は常に目標追求をしながら生きている」と考えています。つまり「目的論」的な生き方ということになるのですが、これが実はなかなかやっかいなシロモノです。というのは、目標を追求し続けるということは「仮想の世界」に生き続けることを意味するからです。


 アドラー心理学でいう「性格」は『ライフスタイル』と呼ばれていますが、これはものすごく簡単な言い方をしてしまうと、【「自分」と「自分を取り巻く世界」をどのようにとらえているか】という、極めて主観的な「意味づけ」であり、「信念」のことです。この「信念」がどのように作られるのかというと、幼い頃の(遅くとも10歳くらいまでの)経験と、その経験に対する未熟な解釈によって作られます。



 例えば、《小さい頃に、上を向いて歩いていたら、自分でも気づかずに犬の尻尾を踏んでしまい、怒った犬に追いかけ回された》という経験から、「自分は弱く」「世界は危険に満ちあふれている」という意味づけ、解釈をするといった感じです。


 さらに子どもは、(子どもなら誰もが持っている)「大人社会に対する劣等感」を、自ら埋め合わせる方法を見つけます。その方法とは、「自分はどうすれば劣等感を感じないですむか?」という一つの戦略であり、それは結果的に「自分はどうあるべきか」という目標になります。


 例えば、自分は弱く、世界は危険に満ちあふれているので、「私は何事も冒険をせずに、慎重に物事を進めるべきだ」といった感じです。この目標が遅くとも10歳くらいまでに作られるとアドラー心理学では考えるわけですが、私が今青字で書いたように、子どもがこんなふうに言語化して目標を認識しているわけではありません。


 自分や世界に対する信念及び目標は、幼い子どもにとっては思考レベルの認識としてではなく、感覚レベルで「無意識」にすり込まれます。よって自分や世界に対する信念及び目標は、その人の無意識に(いわば未来永劫的に)残り続けることになり、その人は(それを自覚することができないので)死ぬまでその世界に生き続けることになります。このように、一般的に「性格は死ぬまで変わらない」などとよく言われるのは、上のようなアドラー心理学のライフスタイル理論で説明することができます。


 しかし、ライフスタイルによって作られたそのような世界が、自ら作り上げた「fictional=仮想的な」ものであることは言うまでもなく、さらにその世界の軸となっている信念や目標は、幼い頃に作られたものだけに、「未熟」で「誤りの多い」ものになります。


 先の例を挙げるならば、世界は(いつも・必ずしも)危険に満ちあふれているわけではないし、私が(どんな場面でも・あるいは今でも)弱いとは限らないし、そして私は(どんな時にも慎重に行動するのではなく、時にはリスクを冒すべき)そのほうが人生がうまくいくかもしれないからです。これこそが「real=現実的な」世界に生きる知恵であり、考え方であると言えます。アドラー心理学ではこのようなリアルな感覚のことを、common sense(コモンセンス)と呼んでいます。

 

 結論を言ってしまうと、私は「〇〇であるべきだ」というその目標は、あなたに「仮想世界」というある種の夢を見続けさせるための、巧妙に仕組まれた「装置」であると言えます。人間の性格とは、そのような巧妙な「まやかし」によって色づけられたものだからです。世界を裸眼で見ているのではなく、「色めがね」をかけて世界を見ていると言ったほうが分かりやすいかもしれませんね。


『マトリックス』という映画をご存じでしょうか?あの映画は、ロボット(機械)によって頭に鉄の管を埋め込まれた人間たちが、マトリックスという仮想プログラムに接続され、いわばずっと夢を見続けているような状態にあるという世界観を表現したものでした。人間たちが「現実」であったと思い込んでいた世界は、実際はロボットが作りだした「仮想世界」であり、人間たちが寝ながら長い夢を見ている間に、ロボットたちは人間から発せられる電気エネルギーを採取していたのです。

ree

 

 そう、これを読んでいる今(この瞬間も)、あなたの無意識(のライフスタイル)は目標追求を止めていません。つまり今あなたが見ているその世界は、現実の(ありのままの)世界ではなく、まるで『マトリックス』のような仮想空間にいるようなものなのです。

 では、この仮想世界から抜け出す方法があるのでしょうか?

 実は一つだけあります。答を言ってしまうと、それは「瞑想」状態を作りだすことです。具体的な内容については、次のブログで詳しくお話したいと思います。

鈴木昇平(アドラー・カウンセラー)

 
 
 

コメント


©  Shohei Suzuki

bottom of page